YKK AP

生活空間から都市空間まで、
時代に応え、未来を拓くYKK AP。

menu

マドコト YKK AP × ソトコト コラボレーションコンテンツ

制作協力  ソトコト


伊香賀先生、教えてください!日本の住まいの健康リスク 伊香賀先生、教えてください!日本の住まいの健康リスク


長い時間を過ごす家の環境を考える人は意外と少ないけど、それはすごく大切なこと。住まいの環境が人の健康に及ぼす影響を、慶應義塾大学の伊香賀俊治先生に教えてもらいました。

家の暑さ・寒さと、
家族の健康。

この20年間、家庭内での不慮の事故死が増え続け、高齢者の浴室での溺死事故にいたっては交通事故死者の約3倍も発生しています。なぜこうした事故が増えているのか? ひとつの要因として考えられるのが「家の寒さ」です。高齢者が増え続けるなか、住宅の断熱性能は一向に上がっておらず、現在の省エネルギー基準を満たしている住宅は、全国でもわずか5%しかありません。
日本人の死因の第1位はガンですが、高齢者においては、脳梗塞と心筋梗塞がガンの死亡者数を上回ります。これらの疾患は、家の寒さ、特に暖房の効いた居間から寒い浴室へ移動して裸になったり、夜中に暖かい布団の中から寒いトイレへ行ったりするなど住宅内での急激な温度差が引き金となることが少なくありません。
また、夏の住宅内での熱中症においても、発症者は高齢者に多く、こちらは家の暑さが要因となります。断熱性能が低い家は、最悪の場合、死に至るほどの健康リスクがあります。
実はこの危険性は、なにも高齢者に限ったことではありません。冬の冷たい空気が、私たちの肺に与える影響はとても大きい。家の断熱性をアップしたことで、年齢を問わず肺疾患が改善し、風邪をひきにくくなり、お子さんが学校を欠席したり、お父さんやお母さんが会社をお休みすることが減少したというニュージーランドの研究データもあるほどです。
世界に比べて日本の「住まいの断熱」に対する考え方は、ユーザーの意識も、基準や法制度もかなり遅れているのが実情です。家族の健康を守るためにも、住まいにおける健康リスクと、断熱性を高めることの大切さをご紹介します。 

教えてくれた人
伊香賀俊治 先生

いかが・としはる
◎1959年東京都生まれ。
慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科教授。
早稲田大学大学院修了、工学博士。
東京大学助教授、日建設計環境計画室長を経て、
2006年から現職、現在に至る。
建築・都市の環境マネジメントの第一人者。

伊香賀俊治 先生 伊香賀俊治 先生

高齢者は、
ヒートショックに注意!

家の寒さや温度差は、
血圧に影響する。

家庭内で起こる事故死のうち、心筋梗塞や狭心症などの心疾患、脳梗塞などの脳血管疾患が原因となるものは、冬に増加する傾向にあります。
なかでも、高齢者の入浴事故が増える要因のひとつに、住宅内移動時の急激な温度差で起きる「ヒートショック」が挙げられます。暖かい居間から寒い脱衣場。そして再び、暖かい浴槽へ移動することで起こる急激な温度差が、血圧を乱高下させたり脈拍を変動させたりします。これは脳出血や脳梗塞、心筋梗塞などの重篤な疾患を引き起こすことにつながります。
また、寒いと体の動きが鈍くなるため、高齢者の転倒事故も多発することに。冬寒い家に、いいことは何ひとつないのです。

左のグラフは、循環器疾患での月別死亡者数で、冬に大きく増加しているのがわかる。
右のグラフは、家庭内事故死者の年齢分布と死因の内訳。死亡者は高齢者に集中し、入浴事故が死因第1位。

循環器疾患での住宅内月別死亡者数で、冬に大きく増加しているのがわかる。

(出典:羽山広文 他「, 住環境が死亡原因に与える影響 その1気象条件・
死亡場所と死亡率の関係」, 第68回日本公衆衛生学会総会, 2009)

家庭内事故死者の年齢分布と死因の内訳。死亡者は高齢者に集中し、入浴事故が死因第1位。

(出典:厚生労働省 人口動態調査〈2012年度〉)

家族を守る快適室温は
18℃以上。

「寒い」と感じる部屋は、
健康リスクのある部屋。

「冬の廊下や脱衣所が寒いのは当たり前」と考える人は、多いのでは? しかし実際には、それが原因で事故死をしてしまう人は大勢います。英国建築研究所が開発した、住宅の健康安全性の評価システムによれば、健康な温度は21℃。18℃から健康リスクが現れ、16℃以下では深刻なリスクが現れるとされています。冬の自宅の室温を思えば、衝撃的な内容ですよね。
家の寒さは、血圧の上昇、肺の抵抗力弱体化、血液の濃化などを引き起こす危険性があります。これまで、日本の標準的な家の断熱性能は欧米諸国に比べると著しく低く、冬の室温が一桁台まで下がることも珍しくありませんでした。そんな住まいの環境を変えることが、健康へとつながるのです。

家の寒さは、肺を冷やし、血圧を上昇させる。
すると病気への抵抗力が下がり、
肺感染症のリスクが増大。
血液はドロドロになり動脈硬化を
引き起こす可能性も。
それぞれ、肺炎、心筋梗塞など
死亡リスクのある危険な症状である。

(英国保健省年次報告書、2010.3)

その体の不調は、
寒さが原因!?

暖かい家には、
健康にいいことがたくさん!

居間とトイレの温度差が10℃以上あると、一日に移動する歩数が2000歩も減少するというデータがあります。寒さは運動不足の要因にもなり、運動不足は当然体によくありません。
暑さ・寒さによる住まいの健康リスクをなくすためには、家の断熱性能を向上させることが最短の道。冬に暖かい家なら、朝の起床や寝室から廊下に出たりするツラさが減り、活動的な暮らしを送ることができます。それに家が暖かくなれば灯油ストーブやファンヒーターの使用を控えられ、部屋の空気もキレイになります。断熱性能を上げると、結果的に遮音性も高めることとなり、騒音ストレスの軽減や睡眠の質の向上といった健康メリットにつながります。

この調査では、高断熱住宅に転居した多くの人が、
健康面での変化を感じている結果が表れた。
家の暖かさのほか、結露現象による
カビ・ダニの発生改善、暖房方式、
換気システムの改善による空気の清浄化など、
複合的な効果によるものと考えられる。

(出典:岩前篤:断熱性能と健康, 日本建築学会 第40回 熱シンポジウム講演集, 2010.10)

家全体を、
“均一に暖かく”が理想的。

断熱性能の高い家なら、
高血圧が改善する!?

家の寒さが体に与える影響はさまざまですが、ヒートショックで起こりやすい循環器疾患(心疾患、脳出血疾患)には、血圧が大きく関係し、高血圧や動脈硬化の傾向にある人に起こりやすいといわれています。40歳以上では、室温が低下すると血圧が上昇する傾向にあり、それは高齢になればなるほど顕著です。
住まいの断熱化を適切に施したモデル住宅での体験宿泊を行った際のデータでは、起床時血圧の低下、心拍数上昇(上のグラフ参照)の抑制などが認められました。また、自宅の断熱性改修前後(起床時の平均室温が8℃から20℃へ)で比較したケースでは、起床時血圧は最高血圧で12㎜Hgの低下が見られました。

高断熱モデル住宅での体験宿泊(12日間)と
自宅で、起床時の心拍数を比較した結果、
暖かなモデル住宅では起床直後の
急激な心拍数上昇が生じずに、
入浴時も同様の結果だった(70代男性の結果)。
寝室の床表面温度は、自宅=7.2℃、
モデル住宅=21.0℃の違いがある。

(出典:慶應義塾大学 伊香賀俊治研究室)

断熱性能の低い家では、
夏の暑さも過酷。

夏の家での熱中症。
特に高齢者は注意して!

家庭内での不慮の死亡事故は、住宅内での温度差が激しい冬に起こりやすいですが、夏の暑さが原因で起きる家庭内事故も。
近年の異常気象ともいえる夏の暑さから患者数が増加し、その危険性が叫ばれるようになった「熱中症」ですが、意外なことにその多くは住宅内で発生しています。そのうち、約7割を占めるのが65歳以上。これは、住宅の断熱性が低く、室内が非常に暑くなることに加え、冷房を適切に使用しない、水分を摂取しない、など熱中症対策の不足も要因ですが、住まいの断熱がしっかり行われていれば、それだけで避けられる事故といえます。断熱性能を高めることで、外の熱気を家に入れず、また冷房の効率も高めることができます。

熱中症は屋外でかかるものというイメージがあるが、
グラフからもわかるように、
住宅などの居住施設で最も多く発生している。
年齢別では65歳以上が約7割を占める。
住宅内での熱中症は、65歳以上になれば、
みんな注意が必要。

(出典:国立環境研究所 熱中症患者速報ホームページ, 2010)

寒さ・暑さをなくせば、
体が動き出す。

家族みんなが健康で、
長生きできる家に。

これまでお伝えしたように、夏に涼しく、冬は暖かい断熱性能の高い家は、家族の健康を維持するための大事な器です。現在、健康に不安がなくても、家は20年、30年と住み続けるもの。今小さな子どものため、いつか高齢となる自分のために、健康を害さない家づくりを目指したいですね。
一時的に断熱工事のコストがかかっても、光熱費のランニングコストや、病院にかからないことでの医療費削減や、さらには健康保険などの公的負担を考えると、十二分に回収できます。
部屋間の温度差が少ない家なら体もよく動き、歳をとっても元気で活動的に過ごせます。断熱性能の高い家は、家族が健康で長生きできる家なのです。

身体活動と心血管起因の
累積死亡率を調査したもの。
最も不活発な群は、
最も活発な群に比べ
死亡率が約3倍!

(出典:Leiv Sandvic et al., “Physical Fitness as a Predictor
of Mortality Among Healthy, Middle-Aged Norwegian Men,
” The NewEngland Journal of Medicine , Vol.328, pp.533-537, 1993.2)

住宅の高断熱化がもたらすメリットと、
断熱工事費の投資回収年数の関係

断熱工事にかけた100万円は、断熱性能を上げたことで
享受される様々なメリットからその投資を回収することができる。
まずは光熱費削減というメリット。
主に断熱性能向上でエアコンの稼働が抑えられるが、
そこで削減できた電気料金を換算した場合、
投資した100万円は29年間で回収可能。
また、断熱性能向上が様々な疾病予防につながって
医療費を削減できた場合、その年数は光熱費削減メリットの
29年よりもさらに13年も早い16年になる。
また、医療費が削減されると健康保険などの
公的負担の削減にもつながるが、その健康保険料を
支払うのは私たちであるので、公的負担減は
すなわち私たちの負担減につながり、
このメリットを加算すると、さらに5年ほど早い、
11年での回収が可能といえるのだ。

(出典:伊香賀俊治ほか:健康維持がもたらす間接的便益(NEB)を考慮した住宅断熱の投資評価,
日本建築学会環境系論文集,2011.8)

pagetop