社会に貢献する技術開発とそれを実現するYKK APの社員力

YKK APは「Architectural Productsで社会を幸せにする会社。」をパーパスに掲げ、社会課題解決に貢献する技術を「技術の総本山」と位置付ける富山県黒部市から発信しています。フリーキャスターとして、地域経済の活性化やエネルギー問題などの社会課題を取材し情報発信を続ける伊藤聡子氏と、社長の堀秀充が、黒部の「YKK AP R&Dセンター」で、YKK APの事業の持つ意義について語り合いました。

伊藤 聡子 氏

フリーキャスター
事業創造大学院大学客員教授

堀 秀充

YKK AP
代表取締役社長

メーカーとして生活者視点を踏まえたモノづくりを大切に

伊藤氏

本日、黒部にあるYKK APの製造所や開発拠点を視察しました。立山連峰を望む豊かな自然と技術の粋を集めた工場が一体感を生んでいました。皆さんは黒部を「技術の総本山」と呼んでいるそうですね。製造の本拠地であり、さらに商品の評価・検証を行う「価値検証センター」、プロユーザーに技術提案を行う「パートナーズサポートスタジオ」、技術の集積地である「YKK AP R&Dセンター」が隣接することで、使う人とプロの視点を吸い上げた研究開発ができ、モノづくりにスピード感をもって反映することができると説明していただきました。

私は社長就任以来「メーカーに徹する」を方針にしており、メーカーとして生活者視点を踏まえたモノづくりを大切にしています。その重要な拠点が、ここ黒部です。製造・開発のヘッドクオーターであり、最前線の現場でもあります。

伊藤氏

開発の現場に商品をお使いになるお客様に入ってもらう、「生活者検証」を行っているそうですね。

はい。子どもや高齢者、障がいのある方などさまざまな属性のモニターに試作品を使ってもらい、扱いやすさやデザイン性など、気づいたことをどんどん言っていただきます。容赦のない意見も出てきますよ。非常に参考になります。 価値検証センターでは、輸送時の振動の実験もしています。商品の品質に加え、お届け、施工、住宅に設置された状態、すべての工程での品質を向上させる努力をしています。

伊藤氏

価値検証センターでは、窓に雨や風、飛来物を当てる実験も拝見しました。あれほど過酷な状況を想定して安全性を追求されていることに驚きました。パートナーズサポートスタジオでは、それをプロユーザーにご説明するのですか?

パートナーズサポートスタジオでは説明だけではなく、当社の開発部門の技術者がハウスメーカーやビルダーなどプロユーザーの皆様からご要望や課題を伺い、技術と品質に基づく提案を行います。残念ながら、今のコロナ禍では当地に来ていただくことが難しいので、オンラインで対応しています。

社会に役立つものをつくり、その利益でさらに良いものを開発する

伊藤氏

海外でも事業を展開されています。土地ごとに気象条件が違いニーズも異なると思いますが、どうされているのですか。

それぞれの国や地域で気候や風土、文化を理解し、現地に根差した事業展開を行っています。例えば米国ではハリケーンが来ても壊れない特殊な窓を、台風の襲来が多い台湾では水密性能の高い窓を、それぞれ現地で開発・製造しています。今は現地で完結できる能力を持った海外会社も増えましたが、ここ黒部のYKK AP R&Dセンターに集結した技術者が各地での研究開発をサポートしています。

伊藤氏

社会課題に対応した取り組みも多いと聞きます。例えばカーボンニュートラルへの貢献という点ではいかがでしょうか。

住宅の断熱性能を左右するのは熱の流出入の割合が最も大きい窓の性能なので、家庭でのCO2削減を目指すうえで、窓は主役になり得る商材だと自負しています。もちろん、事業活動におけるCO2排出量削減にも積極的に取り組んでいます。 私たちはメーカーなので、カーボンニュートラルに技術力で向き合っていきたい。技術者には発破をかけていますが、特に若手技術者がこれを意気に感じ、モチベーションを持ってくれているようです。

伊藤氏

本日、施設を案内してくださった社員の方々と話す中でも、皆さん熱意を持っていると感じました。社員の意欲をどのように育てておられるのですか。

実はあまり育てているという感覚はないのですよ。もともと当社にはYKK精神「善の巡環」を表す経営の在り方としてYKK創業者 吉田忠雄が唱えた「成果三分配」という考えがあります。他社が100円でつくっているものを創意工夫により50円でつくり、生み出した利益はお客様と関連企業と自分たちで三分する。そして自分たちの取り分は開発や投資にまわし、もっと社会に役立つものをつくっていこうという精神です。少し話がそれますが、製造所のラインでたくさんのロボットが稼働しているところをご覧になったと思います。あれは当社の工機技術部が製造ラインを設計し、導入したものです。ロボット自体は購入しますが、それをどう動かすかは当社で設計します。自らの手で新しいものを生み出そう、そして社会の役に立とうと考える土壌があるのです。

YKK創業からの精神を引き継ぎ、社員が能力を発揮できる環境を整備

伊藤氏

企業文化が一人ひとりの意識を育てているということですか。

おっしゃる通りです。もう一つYKK創業者の言葉を紹介しますと、「YKKグループは森林のような集団である」というものがあります。高い木、低い木、さまざまな木が独立しながらもまとまって森林を形成するように、さまざまな属性や個性を持つ社員一人ひとりが自律しながらもまとまって会社になるという考え方です。

伊藤氏

ダイバーシティに通じる言葉です。ESGの「Social」テーマの一つ、人を大事にすることも土壌としてあるのですね。

はい。何といっても大切なのは社員力です。そこでCHRO(最高人事責任者)という役職を新設し、社員が能力をさらに伸ばす制度や、能力を発揮しやすい環境整備を進めています。研修支援や表彰などで、既存事業を成長させる人材に加え、イノベーションに挑戦できる人材の育成を図っています。また「車座集会」といって、全国の営業・製造拠点に私自身や取締役が出向き、社員のみなさんとフラットに話す場を設けています。本音で話す中であらゆる課題が浮上します。女性社員からは「キャリアをどう積めばいいのか分からない」「ロールモデルとなる人がいない」というリアルな言葉が聞こえます。

伊藤氏

私は地域経済の活性化を研究のテーマにしています。黒部市という地方都市に最先端の開発製造拠点があることは、地域経済にとっては理想的ですし、地域の方々の希望になります。またウィズコロナ時代になり、地方でのリモートワークを希望する人も増えました。そうした方たちにとっても、またとない環境ではないかと思います。

私たちも、黒部市で日本だけでなく世界に発信する技術開発を行っている自負があります。リモートワークの充実により働く場所の制約が少なくなりましたから、地方都市にいながら、都市部や世界各地とすぐにつながり、一緒に仕事をすることができる。このメリットを生かしながら、さまざまな働き方を実現していこうと考えています。

伊藤氏

本日はYKK APさんの志を感じました。今後もこの黒部からどんな快適な暮らしを私たちに提供してくれるのか、とても楽しみです。

この対談は2022年4月12日に行われました

伊藤 聡子 氏

フリーキャスター
事業創造大学院大学客員教授

新潟県糸魚川市出身。報道情報番組のキャスターを務めた後、NYフォーダム大学留学。帰国後もテレビ・ラジオでキャスターを務めるかたわら国際貢献、エネルギー問題等に関心を持ち活動に取り組む。事業創造大学院大学修了、MBA取得。現在はテレビ番組コメンテーターなどで活躍。「地域経済の活性化が日本の元気を取り戻す鍵」が持論。