医師と建築家が徹底分析!

窓とアンチエイジングの深い関係

窓や住まいがヘルスケアにどんな影響を及ぼすのか、専門家にインタビュー。
アンチエイジング研究の第一人者である山田秀和先生と、
住宅と健康の関係をわかりやすく紐解いてきた岩前篤先生に話をうかがいます。

山田秀和先生
山田 秀和 先生
近畿大学客員教授。1981年近畿大学医学部卒業。専門は皮膚科学、抗加齢医学。近畿大学アンチエイジングセンターの創設者、2007年からアンチエイジングの共同研究を行なっている。
岩前篤先生
岩前 篤 先生
近畿大学副学長、同大建築学部長教授。1986年神戸大学大学院を修了、住宅メーカーの研究所で住宅の断熱・気密・防露に関する研究と技術開発に携わる。2003年近畿大学理工学部建築学科助教授、2009年教授、2011年建築学部創設とともに初代学部長就任、現在に至る。ライフワークは健康を支える住まいのつくり方を1つずつ明らかにすること。
ずーしみ(インタビュアー)
ずーしみインタビュアー
YKK APの社員であり、社内YouTuber。皆様に、住宅や窓、そして企業情報について配信をわかりやすくお伝えします。

※YKK APより山田秀和先生、岩前篤先生に依頼をし、頂いたコメントを編集して掲載しています。

そもそも、アンチエイジングとは?

ずーしみアンチエイジングを直訳すると「抗加齢」ですよね。これって実現可能なことなのでしょうか?

山田先生

結論から言うと、可能です。
私たちアンチエイジングの研究者がいま目指しているのは「健康寿命の延伸」です。定義がやや難しいのですが、日本人の健康寿命は男女とも70代前半とされており、平均寿命とはおよそ10歳の開きがあります。そんななか、できるだけ薬に頼らず、病気に罹患せず、健康なまま生涯を終えるにはどうすればいいか。つまりPPK(ピンピンコロリ)を実現するために加齢・老化とどう向き合うか。このテーマを医学だけでなく、薬学、建築、農学、運動などさまざまな領域の垣根を越えて解決するのがアンチエイジングであり、いま、ものすごい速度で研究が進んでいる学術分野です。

住宅もアンチエイジングの大事な要素?

ずーしみ私たちがアンチエイジングのためにいますぐ実践できることはありますか?

山田先生

健康寿命の延伸には、①運動、②栄養、③精神(脳・睡眠)、④環境の4つが不可欠で、どれか1つが欠けてもダメ。これらすべてをコントロールすることが有効だとわかっています。
住宅はまさに、④環境に関連する重要なファクターです。このため、高断熱・高気密住宅に住むとか、室内の温度を一定にするとか、住まいのPM2.5や騒音をいかに抑制するかといったことがアンチエイジングの観点からも注目されています。

健康寿命の延伸に欠かせない4つのファクター

住まいにおける「低温」をなくすことが大事

ずーしみ窓や住まいの断熱・気密は、省エネや快適だけでなく、アンチエイジングにも有効だということですね。窓や住まいと健康の関係で言えば、ヒートショックや熱中症のリスクがよく知られるようになりました。

岩前先生

多くの方は「温度差」がヒートショックの引き金になると思い込んでいますが、厳密に言うと、健康にとってより大きな問題は「低温」なんです。ただ、僕らは、寒さを意識すると厚着をしたり、暖房を強くしたり、退室したりと、何かしら対策をとるので、寒いまま過ごすことはあまりありません。けれども、温度が低い状態に身をさらす瞬間は結構あって、それが健康にとってはかなり大きなリスクになります。

ヒートショック現象とは、家の中で低温の場所へ移動した際、血圧が急激に変動することで、失神、心筋梗塞、脳梗塞などを引き起こす現象のこと
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ずーしみ冬場の床が冷たいのはもちろん、戸建住宅だと朝の室温が10℃を切ることも普通にあるのですが...

岩前先生

冷たい床を裸足で踏むとヒヤっとしますよね。この時に足の裏に局所的に高血圧が生じ、それが全身に波及するのがヒートショックだと言われています。
短時間の低温なら大丈夫だろうと思うかもしれませんが、血管が破裂したり、詰まったりするのは一瞬のこと。夜中、トイレに行くためにわざわざ靴下を何枚も重ね履きする余裕がある人なんていないわけで、いやがおうにも低温に体をさらしていることになります

山田先生

確かに、高血圧のリスクを考えると、低温の場所をいかになくすかはとても重要な課題です。試しに寒い部屋と暖かい部屋に交互に入り、腕にはめたスマートウォッチで心拍数を計測すると、自分の体で何が起きているかがわかります。
通常、心拍数変動は、交感神経の過緊張で起こるので、暖かいところから急に寒いところへ行くと心拍数が上がり、それとリンクする形で血圧も上がると予測することができます。普段は正常値の人でも、低温の場所に行くと高血圧の基準を超える可能性が大いにありますし、血圧が高めになる50歳からは特に低温への注意が必要です。
また、寿命のデータを見ると、低温で生活されている方の平均寿命が短いことも明らかになっています。

岩前先生

WHO(世界保健機関)は2018年、住まいと健康に関するガイドラインで冬季の最低推奨室温を「18℃以上」と強く勧告していますが、これは低温による健康被害から住まい手を守るうえでとても正しい情報だと言えます。さらに言えば、ヒートショックはご高齢の方だけに起こるリスクではないという点も知ってほしい情報です。ある調査によると、温度と血圧の因果関係は30代からあらわれることがわかっています。

室温が低いと起床時の血圧が上昇

室温が低いと起床時の血圧が上昇

「スマートウェルネス調査」では、高断熱住宅にリフォームし、室温が高くなるほど入居後に血圧が低下しているという結果が出ています。

出典:「スマートウェルネス住宅等推進事業」資料

室温による健康寿命の差

室温による健康寿命の差

大阪市千里ニュータウンで80名を調査。それぞれの住宅群の住人の、60歳からの要介護状態になった年齢をグラフに示したもの。

出典:林侑江、伊香賀俊治、星旦二、安藤真太朗:住宅内温熱環境と居住者の介護予防に関するイベントヒストリー分析 ー冬季の住宅内温熱環境が要介護状態に及ぼす影響の実態調査ー 日本建築学会環境系論文集, Vol.81, No.729, 2016.11

家族を守る快適室温は18℃以上

家族を守る快適室温は18℃以上

家の寒さは、肺を冷やし、血圧を上昇させる。すると病気への抵抗力が下がり、肺感染症のリスクが増大。血液はドロドロになり動脈硬化を引き起こす可能性も。それぞれ、肺炎、心筋梗塞など死亡リスクのある病気につながる危険がある。

出典:英国保健省年次報告書、2010.3

室温と起床時の心拍上昇比較

室温と起床時の心拍上昇比較

高断熱モデル住宅での体験宿泊と自宅で心拍数を比較した結果、暖かなモデル住宅では起床直後の急激な心拍数上昇が生じない結果だった(70歳男性の結果)。

出典:慶応義塾大学 伊香賀俊治研究室

ずーしみ夏場の熱中症のリスクはどう考えればいいですか?

岩前先生

僕は、熱中症はそこまで大きな健康リスクだとは考えていません。日本の場合、熱中症で亡くなる人よりも低温で亡くなる人のほうが33倍も多く、低温のほうが圧倒的に健康リスクが高いことが明らかになっている調査レポートもあります。
であるにも関わらず、熱中症がクローズアップされるのは、日本の家は窓の性能が低かったり、住宅が隙間だらけで、冷やされた空気が外に逃げてしまうからでしょうね。断熱・気密性能が高い家だと、空間自体が冷やされるため、エアコンを切っても涼しい状態が保たれますが、断熱・気密性能が高くはない多くの家ではエアコンを切った瞬間に暑くてガマンできなくなります。しかも、空間は冷やさないのに人は冷やすので、「冷房病」というまた別の健康障害につながるリスクをはらんでいます。
冬だけでなく、夏の健康のためにも、とにかく窓や住まいの断熱・気密をしっかりすることが大事なんです。

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解決策の1つは「窓リフォーム」

ずーしみアンチエイジングに必要な4条件(①運動、②栄養、③精神、④環境)のなかでも、環境を整える(窓や住まいの断熱・気密性能を上げる)というのはなかなかハードルが高いですね。

岩前先生

身近な解決策の1つに「窓リフォーム」があります。僕自身、自宅にもともとあった窓に「内窓」を取り付けて住まいの断熱性能を上げるリフォームを行なっており、その効果を十分に感じています。
内窓だと工期が短くて済みますし、室内の低温だけでなく、音の問題を解消できるメリットもあります。数年前から騒音と肥満の関係が指摘されていますが、暮らしのストレスを軽減する意味でも内窓はかなり有効だと思います。

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山田先生

いい方法ですね。PPK(ピンピンコロリ)を目指しているけど、住み替えや大がかりな工事までは望んでいないと言う方にも窓リフォームは適しているかもしれません。
岩前先生がおっしゃるように、最近のアンチエイジングの研究では、ストレスが健康寿命に深く関係することがわかってきています。住環境における温度、音、空気質が住む人のストレスとどう関わっているか、この先、より明らかになるんじゃないでしょうか。

ずーしみ窓をアンチエイジングの切り口から見ると、新たな気づきがありそうです。

山田先生

アンチエイジングのうち、美容に関わる部分で言うと、現在のUVカット機能付きの窓も素晴らしいのですが、シワ・たるみの原因になる「UVA」と、肌表面の黒ずみ・赤みの原因になる「UVB」をそれぞれどれくらいカットできるかを示してくれると、特に女性はうれしいでしょうね。
一方、お子さんやお年寄りの骨の健康や、COVID-19に打ち勝つ免疫力を高めるためには、ビタミンDの合成を活性化させる紫外線がある程度必要になってくるので、このあたりをコントロールできると健康と窓はより近い関係になると思います。

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岩前先生

紫外線を適度に遮って適度に入れるということなら、先ほどお話しした内窓は適役かもしれません。内窓を必要に応じて開け閉めすることで、紫外線をコントロールすることは十分に可能だと思います。

家が住む人の見た目を変える!?

ずーしみところで、アンチエイジングっていつから取り組めばいいのでしょうか?

山田先生

アンチエイジングでは、「老化」と「発達」はイコールで、その速度をいかに遅くして健康寿命を長くするかがミッションです。ですから、この質問に大真面目に答えると、生まれる前の受精の瞬間からアンチエイジングは始まっているということになります。では、もう手遅れなのかというとそんなことはなく、対策が早ければ早いほどいいのはもちろんですが、100歳から食生活を変えただけで健康寿命が延伸したというデータもあるくらいなので、アンチエイジングに必要な運動・栄養・精神・環境を整えるために「できることをする」のが何よりも大事です。

岩前先生

少なくともご高齢の方だけの話ではない、ということですね。

山田先生

そうなんです。アンチエイジングには「エピジェネティクス」(老化の進み具合の8割以上は環境因子で決まる)という基本の考え方があります。海外に留学していた人に久しぶりに会ったら日本にいた頃とは顔つきや体つきが別人のように違うとか、30年前の30歳といまの30歳ではまるで雰囲気が違うといった感想をだれでも持ったことがあると思います。これは、社会や街の変化に応じて人も変化(進化)しているからです。
つまり、「暦年齢」は同じでも、環境因子によって「生物学的年齢」をコントロールすることができ、住む家やライフスタイルによって健康寿命や見た目の若々しさが変わってくる可能性があるということです。

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岩前先生

以前、自宅を断熱リフォームした84歳のおばあさんがいらっしゃったのですが、リフォーム後は表情がすごくにこやかに柔和になり、シワが減ったように見えました。

山田先生

十分あり得る変化だと思います。現在は、血液から生物学的年齢がわかる技術が開発されているので、これを応用すれば、将来的には高断熱・高気密住宅と住む人の見た目や若返りの関係を明らかにすることもできるはずです。

岩前先生

高断熱・高気密住宅や窓リフォームのメリットをいくら説いても、いま現在健康な方にはなかなか響かないので、そうしたエビデンスが集まると住まい手のとらえ方も変わってくるかもしれませんね。今日の話にも出てきたように高断熱・高気密の窓や住宅が僕らのヘルスケアに不可欠なのは疑いようもない事実ですし、体感すればそのよさがはっきりとわかります。何より、単純に暮らしやすくなります。多くの人にこの正しい情報が伝わってほしいと思います。

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ライター:金井友子(新建ハウジング)
文:金井友子(新建ハウジング)

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