技術資料日射熱取得性
- ※参考文献 :
- (一社)日本サッシ協会「わかりやすいサッシ・ドアの性能 BASIS 2021」
日射熱取得性とは
開口部の日射熱取得性は日射熱取得率を指標として評価され、η値(イータ値)と呼ばれます。日射熱取得率は、外からの日射熱が開口部を通して室内にどれだけ入るのか、その比率を示します。よって、0から1の範囲で表されます。
夏期は、室内に日射熱を入れたくありませんので日射熱取得率は0に近い値が求められます。逆に冬期は、積極的に日射を取り入れたいので1に近い値が求められます。
日射熱取得率の評価方法には計算法と測定法があり、それぞれJIS A 2103(窓及びドアの熱性能-日射熱取得率の計算)とJIS A 1493(窓及びドアの熱 性能-ソーラ―シミュレータを用いた日射熱取得率の測定)が制定され、窓を構成するガラス、フレーム、日射遮蔽物を用いた場合の正確な日射熱取得率の評価が可能になっています。
JIS A 4702及びJIS A 4706の日射熱取得性の判定は、JIS A 2103の計算に限定されています。
開口部はフレームとガラスで構成されるため、窓全体の日射熱取得率はそれ らの性能値(ηf 、ηg )を面積で加重平均した値となります。特殊金属膜コーティン グ(Low-E膜)を持った日射取得型、日射遮常型のLow-E複層ガラスが一般化さ れつつあり、開口部の遮熱性能を変化させます。
また、雨戸、カーテン、ブラインド、シャッター等の日射遮蔽物(付属物)との組み合わせによっても遮熱性能は大きく変化します。窓を構成するガラス、フレーム、日射遮蔽物の正確な遮熱性能評価が可能になっています。遮熱性能の評価方法には、計算法と測定法があり、それぞれJIS規格が制定されています。

日射熱取得性の等級と性能
日射熱取得性は、JIS A 4702:2021(ドアセット)、JIS A 4706:2021(サッシ)の規定により下表の等級と性能(判定基準)が決められています。
性能項目 | 等級 | 日射熱取得率 | 判定基準 |
---|---|---|---|
日射熱取得性 |
N-1 N-2 N-3 |
1.00 0.50 0.35 |
日射熱取得率が等級との 対応値以下でなければな らない。 |
遮熱性の計算方法
JIS A 2103(窓及びドアの日射熱取得率の計算方法)に計算方法が規定されています。
図1は、フレームの詳細断面を数値解析するためのモデル図を示しています。
JIS規格には、このような詳細な解析法の他にフレームの断熱性能から簡易的に遮熱性能を算出する簡易法が示されています。
図2は、日射遮蔽物※1(右側:ブラインド)を含むグレージング部(複層ガラス+ブラインド)の日射受熱時の伝熱モデルを示しています。
JIS規格によって、様々なフレーム、ガラス、日射遮蔽物の組合せの窓について遮熱性能が算出できます。
日射遮蔽物は、JIS A 2103では窓に平行に配置され日射を遮蔽する効果をもつもの(ブラインド、スクリーン、紙障子、日射調整フィルムなど)と定義されています。

(日射受熱あり)

(複層ガラスと内付ブラインドの例)
日射熱取得率の測定方法
JIS A 1493(窓及びドアの熱性能‐ソーラーシミュレータを用いた日射熱取得率の測定)に試験方法が規定されています。試験方法は、図のような測定装置を用いて照射日射ありの場合と照射日射なしの場合の試験体を通過する熱量を測定します。その差を照射日射量で除することによって日射熱取得率を算出します。

開口部の遮熱性を高めるには
開口部の遮熱性を高めるには、遮熱性の高いガラスや日射遮蔽物を使用することが有効です。夏期・中間期は遮熱性を高め、建物内への過度な日射熱の流入を抑制することにより、冷房エネルギーの削減と窓付近の快適性向上を実現できます。ただし、昼光利用や冬期の日射取得を損なうことの無いよう、計画する必要があります。
開口部の遮熱性指標である日射熱取得率は、ガラスとカーテン・ブラインド等の日射遮蔽物、そして庇・軒等の組合せにより求められます。ガラス・日射遮蔽物・庇・軒等の組合せによる日射熱取得率を表に示します。
(出典: 国土交通省国土技術政策総合研究所・独立行政法人建築研究所監修「自立循環型住宅への設計ガイドライン」(2005))
(1)庇・軒等無し
ガラスの仕様 | 日射遮蔽部材の種類 | ||||
---|---|---|---|---|---|
なし | レースカーテン | 内付ブラインド | 紙障子 | 外付ブラインド | |
普通単板ガラス | 0.88 | 0.56 | 0.46 | 0.38 | 0.19 |
普通複層ガラス | 0.79 | 0.53 | 0.45 | 0.38 | 0.17 |
普通三層複層ガラス | 0.71 | 0.50 | 0.44 | 0.38 | 0.16 |
断熱型低放射複層ガラス (空気層12mm)A |
0.75 | 0.55 | 0.49 | 0.44 | 0.16 |
断熱型低放射複層ガラス (空気層12mm)B |
0.62 | 0.48 | 0.43 | 0.39 | 0.15 |
断熱型低放射複層ガラス (空気層12mm)C |
0.59 | 0.47 | 0.43 | 0.40 | 0.14 |
断熱型低放射複層ガラス (空気層6mm)A |
0.74 | 0.53 | 0.47 | 0.42 | 0.16 |
断熱型低放射複層ガラス (空気層6mm)B |
0.61 | 0.46 | 0.41 | 0.37 | 0.15 |
断熱型低放射複層ガラス (空気層6mm)C |
0.58 | 0.45 | 0.41 | 0.37 | 0.14 |
遮熱型低放射複層ガラス (空気層6mm)A |
0.55 | 0.39 | 0.35 | 0.30 | 0.13 |
遮熱型低放射複層ガラス (空気層6mm)B |
0.50 | 0.37 | 0.33 | 0.29 | 0.12 |
遮熱型低放射複層ガラス (空気層6mm)C |
0.42 | 0.32 | 0.29 | 0.26 | 0.11 |
熱線反射ガラス2種 | 0.55 | 0.41 | 0.36 | 0.32 | 0.13 |
熱線反射ガラス3種 | 0.35 | 0.31 | 0.28 | 0.26 | 0.10 |
表中の日射熱取得率は、既存の省エネ基準に準拠して目標レベルを色分けしています。レベル1は平成4年省エネルギー基準に、レベル2は平成11年省エネルギー基準に準拠し、レベル3は更にその上位に位置する性能です。目標レベルに対する開口部の日射熱取得率の基準値および、表中の色の違いと目標レベルとの対応関係は、以下の通りです。
目標レベル | 開口部の日射熱取得率の 基準値 |
準拠する 省エネルギー基準 |
|
---|---|---|---|
真北±30° 基準値 |
左記以外 (真南±150°) の方位 |
||
レベル0 | 0.79程度 | 0.79程度 | ― |
レベル1 | 0.79以下 | 0.60以下 | 平成4年 省エネルギー基準 |
レベル2 | 0.55以下 | 0.45以下 | 平成11年 省エネルギー基準 |
レベル3 | 0.55以下 | 0.30以下 | ― |

(2)庇・軒等あり/真南±30°以外の方位
ガラスの仕様 | 日射遮蔽部材の種類 | ||||
---|---|---|---|---|---|
なし | レースカーテン | 内付ブラインド | 紙障子 | 外付ブラインド | |
普通単板ガラス | 0.62 | 0.39 | 0.32 | 0.27 | 0.13 |
普通複層ガラス | 0.55 | 0.37 | 0.32 | 0.27 | 0.12 |
普通三層複層ガラス | 0.50 | 0.35 | 0.31 | 0.27 | 0.11 |
断熱型低放射複層ガラス (空気層12mm)A |
0.53 | 0.39 | 0.34 | 0.31 | 0.11 |
断熱型低放射複層ガラス (空気層12mm)B |
0.43 | 0.34 | 0.30 | 0.27 | 0.11 |
断熱型低放射複層ガラス (空気層12mm)C |
0.41 | 0.33 | 0.30 | 0.28 | 0.10 |
断熱型低放射複層ガラス (空気層6mm)A |
0.52 | 0.37 | 0.33 | 0.29 | 0.11 |
断熱型低放射複層ガラス (空気層6mm)B |
0.43 | 0.32 | 0.29 | 0.26 | 0.11 |
断熱型低放射複層ガラス (空気層6mm)C |
0.41 | 0.32 | 0.29 | 0.26 | 0.10 |
遮熱型低放射複層ガラス (空気層6mm)A |
0.39 | 0.27 | 0.25 | 0.21 | 0.09 |
遮熱型低放射複層ガラス (空気層6mm)B |
0.35 | 0.26 | 0.23 | 0.20 | 0.08 |
遮熱型低放射複層ガラス (空気層6mm)C |
0.29 | 0.22 | 0.20 | 0.18 | 0.08 |
熱線反射ガラス2種 | 0.39 | 0.29 | 0.25 | 0.22 | 0.09 |
熱線反射ガラス3種 | 0.25 | 0.22 | 0.20 | 0.18 | 0.07 |
(3)庇・軒等あり/真南±30°の方位
ガラスの仕様 | 日射遮蔽部材の種類 | ||||
---|---|---|---|---|---|
なし | レースカーテン | 内付ブラインド | 紙障子 | 外付ブラインド | |
普通単板ガラス | 0.44 | 0.28 | 0.23 | 0.19 | 0.10 |
普通複層ガラス | 0.40 | 0.27 | 0.23 | 0.19 | 0.09 |
普通三層複層ガラス | 0.36 | 0.25 | 0.22 | 0.19 | 0.08 |
断熱型低放射複層ガラス (空気層12mm)A |
0.38 | 0.28 | 0.25 | 0.22 | 0.08 |
断熱型低放射複層ガラス (空気層12mm)B |
0.31 | 0.24 | 0.22 | 0.20 | 0.08 |
断熱型低放射複層ガラス (空気層12mm)C |
0.30 | 0.24 | 0.22 | 0.20 | 0.07 |
断熱型低放射複層ガラス (空気層6mm)A |
0.37 | 0.27 | 0.24 | 0.21 | 0.08 |
断熱型低放射複層ガラス (空気層6mm)B |
0.31 | 0.23 | 0.21 | 0.19 | 0.08 |
断熱型低放射複層ガラス (空気層6mm)C |
0.29 | 0.23 | 0.21 | 0.19 | 0.07 |
遮熱型低放射複層ガラス (空気層6mm)A |
0.28 | 0.20 | 0.18 | 0.15 | 0.07 |
遮熱型低放射複層ガラス (空気層6mm)B |
0.25 | 0.19 | 0.17 | 0.15 | 0.06 |
遮熱型低放射複層ガラス (空気層6mm)C |
0.21 | 0.16 | 0.15 | 0.13 | 0.06 |
熱線反射ガラス2種 | 0.28 | 0.21 | 0.18 | 0.16 | 0.07 |
熱線反射ガラス3種 | 0.18 | 0.16 | 0.14 | 0.13 | 0.05 |
表の日射熱取得率より、内部側に取り付けるレースカーテン・内付ブラインド・紙障子よりも、外部側に付ける外付ブラインドの方が遮熱性に優れていることが分かります。
図に示すように、内付けのカーテン・ブラインドは、日射が当たり吸収した熱を室内側に放熱するのに対し、外付けの日射遮蔽物は吸収した日射熱を屋外に放熱します。よって、外付けの方が屋内に日射熱を取り込まないので遮熱性が良くなるのです。
開口部の日射遮蔽物の位置による効果の違い

代表的な日射遮蔽物(レースカーテン・内付ブラインド・紙障子・すだれ)の日射熱取得率測定事例をグラフに示します。測定結果は、日射遮蔽物を普通複層ガラスのFIX窓に取付けた場合の値です。比較対象として低放射複層ガラス(Low-E複層ガラス)の値も示しています。
下グラフより、内付けのレースカーテン・内付ブラインド・紙障子に比べ、外付けのすだれが最も遮熱性能が高い(日射熱取得率が小さい)事が分かります。また、遮熱型の低放射複層ガラスは、内付けの日射遮蔽物と同等の遮熱性能が得られることが分かります。一方、断熱型の低放射複層ガラスでは、普通複層ガラスに近い日射熱取得が得られることが分かります。
表およびグラフの測定結果より外付けの日射遮蔽物(外付ブラインド・すだれ)の遮熱性が優れていることが分かります。日射熱取得は、内付けのものに比べて半分以下であり、夏期の冷房エネルギー削減に効果的です。外付けの日射遮蔽物を選定する場合は、操作性がよく、風によるバタツキや騒音を生じにくいものを選択する必要があります。地域の風向や風速を考慮して、安全上支障のない位置に設置することが重要です。
開口部の日射熱取得率測定結果
試験体の窓フレームは、金属製熱遮断構造で黒色の複合皮膜です。

- 出典 :
- 国土交通省国土技術政策総合研究所・独立行政法人建築研究所監修
「自立循環型住宅への設計ガイドライン」(2005)
表の日射熱取得率より、庇の日射遮蔽効果は、南(真南±30°)の方が、それ以外の方位よりも大きいことが分ります。これは、図に示すように南側の窓では太陽高度が高くなるので、庇が窓に影を落とす時間が長くなるためです。東西面では、窓に平行に取付けられる日射遮蔽物(ブラインド、カーテン、スクリーンなど)が効果的です。

窓の方位と日射遮蔽物や庇の使い方を考慮することにより、暖冷房による空調エネルギーを削減することが可能であり、窓際の温熱環境・光環境の向上も実現することが可能です。