「3Dプリンティング」という用語は広く用いられているが、正式な名称はAdditive Manufacturing (AM:付加製造)である。 その定義は「3Dモデルデータを基に、材料を結合して造形物を実体化する加工法」であり、方式として、液槽光重合法(Vat Photopolymerisation)、材料噴射法(Material Jetting)、結合剤噴射法(Binder Jetting)、 粉末床溶融結合法(Powder Bed Fusion)、シート積層法(Sheet Lamination)、材料押し出し法(Material Extrusion)、指向エネルギー堆積法(Directed Energy Deposition) の7つが存在している。 それぞれが、プラスチック、金属、コンクリート、セメント、セラミック、ガラス、食品、細胞などの素材と結びついている。
1980年代から1990年代にかけ、企業によるものづくりの「高速な試作(ラピッド・プロトタイピング)」を目的として誕生したこの技術は、2005年前後を境に、小型化された卓上機械として大きく社会に普及した。 この結果、企業のみならず個人のものづくりにも広く活用されるようになった。「メイカームーブメント」が生まれ、市民工房「ファブラボ」等が各地に設立された。 しかし依然として、速度・強度・品質等の課題があり、その用途の多くは特定個人かコミュニティに限定されたもの(ファブリケーション)でもあった。 しかし2010年代の研究と技術進化により課題点が徐々に克服され、最終的な「製品」を直接製造する(マニュファクチャリング)までに到達してきている。 大量生産品と異なり、ひとつひとつがすべて異なる製品をつくることができるため、その特徴を活かすものとして、靴・乗り物・建築などの分野で製品販売されている例が存在する。
3Dプリンタは過去10年、大きく3つの要素と結びつくことで可能性を広げてきた。一つ目は、コンピュテーショナルデザインである。計算による表現を物質に直接具現化できるようになった。 二つ目は、新素材や複合素材である。扱うことのできる素材の種類が増え、表現を加えることができるようになった。三つ目は、オープンなコラボレーションである。 異なる立場の人間が参加し、「もの」をつくりながら、共創のコミュニティを育てていくことが日常化した。実はこの3つはすべてガウディに繋がっている。 コンピュテーショナルデザインのルーツのひとつは構造力学的合理性を探求したガウディの「逆さ吊り実験」である。 ガウディが光の陰影や周辺環境との呼応を含め「素材感」を大切にしたこと、また職人はじめさまざまなコラボレーションを続けたことはとてもよく知られた事実である。 3Dプリンティングは、ガウディの精神を宿しながら、日々進化していると言えるのかもしれない。
3Dプリンタと建築の関係は、建築全体を3Dプリントしようとするもの(材料はコンクリートや土、プラスチックなど)と、建築の一部(屋根、ファサード、パーティションなど)を3Dプリントでつくろうとするものに分かれる。 前者の場合、デザイン的な特徴として、外形が丸みを帯びた曲面であるものが多く存在する。これは、大型3Dプリンタの造形方式上の制約で直角コーナーを出すのが困難であることから来ているが、 逆に言えば、従来の型枠によるコンクリート表現とはまったく異なる形態言語が開拓される可能性がある。また、積層痕と呼ばれる造形過程の痕跡が見られるが、これを意匠としてそのまま活用しようとする工夫も近年多くみられる。 後者の場合は、コンピュテーショナルデザインと新素材の力を結び付け、従来ではありえなかったよう新機能(音響効果、通気性効果、調湿効果、光の拡散効果など)を生み出そうという例が多く、本展覧会に通じている。
現在「4Dプリンティング」という分野が立ち上がろうとしている。これは、3Dプリントした物質が、なんらかの環境の変化やエネルギーを受けて、形状を変形させたり運動するものである。 別の言い方をすれば「電気を使わないで、ものの形を静かに変えること」がこの分野では探求されており、これまでの自動車やロボットのような「モーター」で動く機械的な変形と比べて、 パワーは小さくても、花が持つ繊細で有機的な美しい開花の変形や、寒暖差で自動開閉する窓の変形などが可能となる。この動作に電気は使用しない。省エネ化を進めながら、自然に調和的な未来に向かうための新しい道筋を探索しているのだ。 もし、ガウディが現代に生きていたら、この技術をどのように創作に取り込んだだろうか?今回の展示から、新しい想像力を獲得することもできるだろう。