ガウディの窓

学術監修・テキスト: 山村健
(東京工芸大学工学部工学科建築コース准教授)

ANTONI GAUDÍ アントニ・ガウディ 25 June 1852 – 10 June 1926

Portrait of Antoni Gaudí (1878)

Portrait of Antoni Gaudí (1878)

アントニ・ガウディ・イ・クルネット(1852-1926)はスペインのバルセロナを中心に活躍した建築家である。彼の遺作であるサグラダ・ファミリア聖堂は現在も建設が続いており、未完の教会として多くの人々が関心を寄せている。 ガウディが残した図面や模型は1936年の市民戦争の際に焼失してしまった。それゆえに、ガウディの設計手法については未解明な部分が多い。 その一方で、ガウディが存命中に制作した逆吊模型などは、現代のコンピュータを約100年前に持っていたかのようなアイディアと精度であり、ガウディの思考は古くなく、むしろ現代の我々に様々な示唆を与えてくれるものだといえる。 そこで、本展はガウディがデザインした窓に注目し、これからの未来の窓を考えるヒントを得ようとするものである。

空間に生命を与える多彩な窓

ガウディの窓は多様である。ガウディの建築は有機的といわれるが、それは壁が湾曲しているからではない。動かないはずの建築が、あたかも生命を持っているかのように生き生きと機能しているからである。 現在は多機能・高機能化した窓が主流となっているが、ガウディは自然の要素を一つ一つ丁寧に研究し、多彩な窓のデザインを通じて空間に生命を与えていた。本展では、ガウディの窓に見られる「光」「風」「音」の要素に着目した。

光とガウディの窓

窓の初源的な機能の一つは、外部へ煙を逃がすことであった。それが天窓となり、光を内部へ導く窓になったといわれている。ガウディは建築を設計する際に、光をとても大事にしていた。 太陽の高度に留意して、窓の位置を決めたり(例:コロニア・グエル教会)、角度を考えて光を拡散させたり(例:サグラダ・ファミリア聖堂)、諸室間を明るく照らすためにステンドグラスを用いたり(例:カサ・バトリョ)している。 「芸術作品の本質的な性質は調和である。造形作品においては、それは光から生まれる。光は、際立たせ、装飾する。私は、ラテン語のdécor(装飾)という言葉は光を意味する、あるいは光に由来する、あるいは光と非常に関係するものであると思う。 それは明晰さを表現するものである」[1]とガウディ自身が述べている。窓を通過する光が明るさ以上の意味を持ち、空間を際立たせる光の装飾として人々が認識したとき、日常生活は新たな彩りを持つことになるのではないだろうか。

[1] Puig Boada, "Temple de la Sagrada Familia" (Barcelona: Barcino, 1929), PB.TSF.-173-03.

Colonia Güell © Takeshi Yamamura

Colonia Güell © Takeshi Yamamura

Casa Batlló © Takeshi Yamamura

Casa Milà © Takeshi Yamamura

Park Güell―Ajuntament de Barcelona © Takeshi Yamamura

風とガウディの窓

カサ・バトリョはガウディが改修したアパートであり、古いアパートを快適な住空間とするために風の通り道が設計されている。主階の外壁に小さく穿たれた穴は、外部から内部へと空気を呼び込むための窓である。 その空気が部屋から部屋へと流れていくように内部の建具にも窓が設けられている。生活する人々がそれらの窓を開閉することで、風の通り道がうまれる。 主階を抜けた風は煙突効果で屋上階に上昇し、屋上階の回廊に設けられた下向きの窓から洗濯室へと吸い込まれ、再び窓から外部へと去っていく。居住空間を快適にした空気は、衣類を乾かす風となって建物内を縦断するのである。 空気の流れは昔も今も、そしてこれからも人々の生活を豊かにする要素であり、ガウディが一つ一つ丁寧にデザインした異なる窓からは、未来の快適な窓を考えるヒントが潜んでいると思われる。

Casa Batlló © Triangle Postals

Casa Batlló © Triangle Postals

Casa Batlló © Triangle Postals

Casa Batlló © Takeshi Yamamura

Casa Batlló © Takeshi Yamamura

音とガウディの窓

ガウディは目に見える造形のセンスもさることながら、目に見えないものにカタチを与えるセンスもまたピカイチである。グエル邸の主階では時に音楽会が開催されるサロンとして機能していた。 音響が重要な空間でありながら、実はその音響構造を利用して、グエル伯爵が上階にいても主階の会話を聞くことができたという逸話がある。グエル別邸には、馬の調教小屋が設けられている。 馬が歩く度に蹄の音がドーム内に反響し、馬が自らその音で体調を確認することができたらしい。サグラダ・ファミリア聖堂の鐘楼には鐘が設置される予定である。 鐘楼内には鐘の設置場所が用意されており、そこで奏でられた音色が市内へと拡散するように鐘楼に下向きの音の窓が穿たれている。音や音楽は人や動物を元気にする力がある。ガウディは音にもカタチを与える窓をデザインしていたのだ。

Finca Güell © Masayuki IRIE

Palau Güell © Takeshi Yamamura

COLLABORATION WITH CASA BATTLO

カサバトリョとのコラボレーション

世界遺産に登録されたガウディ建築カサ・バトリョによる全面協力のもと、最新3D技術を用いて、視線と換気の機能が上部下部に分けられてデザインされた、 実物が3mを超えるカサ・バトリョの特徴的な窓40%縮尺スケールで東京ミッドタウンの展示空間に再現します。 この貴重な窓の縮小再現は、コロナ禍という困難な状況にありながら、デジタル技術の活用により、国を超え、YKK AP、カサ・バトリョ、東京工芸大学山村健研究室、 早稲田大学石田航星研究室、前田建設工業ICI総合センター、PRODUCT DESIGN CENTERによる産学共創PJとして実現しました。 YKK APは、建築における3D技術活用による実測から施工までの一気通貫が普及する未来や、歴史的建造物の保存修復や再生などを想定しています。

COLLABORATION WITH CASA BATTLO

COLLABORATION WITH CASA BATTLO

GAUDĺOLOGY WINDOW RESEARCH

カサ・ビセンス CASA VICENS

カサ・ビセンスは1883年から1885年にかけて、ガウディが手掛けた建築処女作である。イスラム建築やマドリッドで流行していたネオ・ムデハル建築の影響が色濃くでている作品である。 その中でも、東洋から影響を受けたとしばし指摘されるしとみ戸などが特徴的である。

© Casa Vicens Gaudí, Barcelona 2019. David Cardelus photography

© takeshi yamamura

© takeshi yamamura

© Casa Vicens Gaudí, Barcelona 2019. David Cardelus photography

© Casa Vicens Gaudí, Barcelona 2019. David Cardelus photography

© Casa Vicens Gaudí, Barcelona 2017. Pol Viladoms photography

© Casa Vicens Gaudí, Barcelona 2017. Pol Viladoms photography

© Casa Vicens Gaudí, Barcelona 2017. Pol Viladoms photography

パラウ・グエル PALAU GÜELL

グエル邸はガウディがグエル伯爵から依頼された三つ目の建築で、中期の代表作である。 外部は鉄細工装飾が施された門扉、主階の出窓ギャラリー、裏ファサードには細かいルーバー付き窓があり、内部は中央ホールに面して回廊に外部に用いられるような開き窓や中二階とホールをつなぐ窓など、多種多様な窓が丁寧にデザインされているのが特徴的である。

Montse Baldomà © Diputació de Barcelona

© Takeshi Yamamura

© Takeshi Yamamura

© Takeshi Yamamura

© Takeshi Yamamura

© Takeshi Yamamura

© Takeshi Yamamura

カサ・バ・トリョ CASA BATLLÓ

カサ・バトリョは1904-1906年にガウディが増改築を行ったアパートである。細長い平面ゆえに6つのパティオを効果的に用いることで、全ての部屋で採光、通風が可能となっている。 そのために、様々な開口部や建具がデザインされており、至る所に光の窓、風の窓などが点在しているのが特徴である。

Casa Batlló © Triangle Postals

Casa Batlló © Triangle Postals

Casa Batlló © takeshi yamamura

Casa Batlló © takeshi yamamura

Casa Batlló © Triangle Postals

Casa Batlló © Triangle Postals

Casa Batlló © Triangle Postals

Casa Batlló © Takeshi Yamamura

カサ・ミラ CASA MILLÀ

カサ・ミラ(ペドレラ)はガウディが1906-1912年に設計した集合住宅である。ガウディの晩年の作品として位置づけられ、多くの建築家や芸術家に影響を与えた作品である。 カサ・ミラの柱梁構造は断面積の必要に応じて鉄、石、レンガの柱と鉄鋼梁によって構成されており、自由なファサードを獲得している。 そのため、外観の窓は上下階で揃っておらず、波打つファサードに呼応するように自由に配置されている。

Casa Milà © Archivo Fundació Catalunya La Pedrera

Casa Milà © Triangle Postals

Casa Milà © Triangle Postals

Casa Milà © Triangle Postals

Casa Milà © Archivo Fundació Catalunya La Pedrera

Casa Milà © takeshi yamamura

Casa Milà © takeshi yamamura

Casa Milà © Triangle Postals

企画アドバイス:ダニエル・ギラルト・ミラクル
画像 & 協力:The Gaudí Research Institute、一般社団法人ガウディ学研究所、Triangle Postals、関西カタルーニャセンター、セルジ・ルイス、DarTec DD

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