第7話 音と窓
「音」といってもいろいろな音があります。特に都会に住んでいると、様々な種類の音があふれていることに驚きます。その音が不快に感じるものが多いこと多いこと。電車の中で若者のイヤホンから聞こえてくるシャカシャカという音。携帯電話の呼び出し音。いま時分は年度末で道路工事が多いですが、この工事音なども私たちを不快にする騒音のひとつです。騒音は、私たちに決して好影響を与えるとはいえません。ところが、音楽の音はどうでしょうか。心地よいと感じるでしょう。このような心地よい音は私たちに対して好影響を与え、健康にもよいといわれています。本コラムでは音と健康や睡眠との関係について考えることとしましょう。
騒音ってどんなもの?
長期間、大きな音にさらされると、難聴になることがあるのはご存知の方もいるかもしれません。そればかりではなく、騒音は人体へ様々な悪影響を及ぼすことがわかっています。心理的な面でいえば、不快感やイライラが増して、集中力がなくなったり、不安感が増したりします。身体への影響も深刻です。騒音のせいで疲労感がひどくなったり、吐き気を催したりすることがあります。また、胃の運動機能が低下して胃腸障害を起こす人や、血圧が上がってしまう人もいます。自律神経、内分泌系に影響することもありますし、睡眠が妨げられることで体調を崩すこともあります。妊娠にも影響を与え、妊娠期間の短縮、赤ちゃんの出生時体重の減少、早期破水などを誘発することなども報告されています。「音」の影響力がどれほどのものか、よくおわかりいただけるでしょう。
生活騒音は毎日の生活の中から出る音で、音の種類、出る時間、場所はいつも同じとは限りません。昼間は気にならなかった音でも、早朝や夜間周りが静かになるとうるさく感じることもありますね。ちょっとした物音であっても、聞いている人の感覚や精神状態によっては、耐えがたく感じることもあります。音の大きさだけで測れないのが、生活騒音なのです。
生活騒音を減らすには、いくつかの方法が考えられます。もっとも手っ取り早いのは、音の発生源を離れた場所に移すことですが、他者からいやおうなく聞かされる音を遠ざけるのは簡単ではないでしょう。それ以外で考えられるのは、音を防御することです。たとえば、音の発生源を囲って音の伝わる経路をさえぎる(遮音)、音を吸収する効果の大きい材料をはる(吸音)などの方法がそうです。
音の聞こえてくる壁面に家具を配置するだけでも、外部からの音の聞こえ方は違ってきます。それでも解消されないなら、防音効果の高いグラスウールの壁などを取り付ける方法もあります。 外部からの騒音、特に交通騒音などが気になる場合は、窓の防音を考える必要があるでしょう。窓はもっとも音が伝わりやすい場所です。防音性の高いカーテンを活用するのが簡単ですが、二重窓にすることでも高い防音効果を期待できます。
こうした措置を施すと、近隣からの音を遮るだけではなく、自分の家から出る生活騒音を周囲に伝わりにくくするというメリットもあります。音に対する感じ方は人によって異なります。それを必要とするか・しないかにより、心地よい音になったり、ない方がよい音(騒音)になったりするのです。他人への迷惑にならないようにルールを守って、静かな環境の維持に留意することが大事です。
心地よい「音」を生活に取り入れよう
では、騒音と音楽の違いは何でしょうか。私たちは騒音を聞けば「騒音だ」と感じ、音楽を聴けば「音楽だ」と即座に判別できます。この能力は決して特別なものではなく、健康な人間なら生まれながらに持っている能力です。音楽といってもいろいろな音楽があり、好みの違う音楽を「騒音」と感じる方もいるかもしれませんが、それでも「音楽」と認識しています。では違いはどこにあるかというと、それはゆらぎの有無です。聞いていて心地よいと感じる音には、「1/fのゆらぎ」(音や光の波長の一種)が存在しているといわれています。
たとえば、睡眠のための音楽を考えてみましょう。睡眠誘導にBGMを用いる際に注意すべきことは、音量です。いかにゆらぎのあるいい音楽でも、40dB(A)を超えると睡眠に影響を与えます。50dB(A)を超えると、睡眠妨害の被害を訴えるヒトが急激に増えるといわれています。
睡眠誘導のBGMは、一般的にはクラシック音楽などの楽器だけを使った音楽がよいでしょう。好きな歌手の歌などは向いていません。歌は言語脳を使ってしまうので、睡眠誘導には不向きなのです。おすすめは、ゆったりとしたテンポのハーモニー主体型の音楽。このような音楽でストレスを緩和してまずはα波を増やし、次第にまどろみのθ(シータ)派、δ(デルタ)波優勢へと導いていくのがポイントです。テンポが次第に遅くなり、音域は高音域から低音域へ、そして音量は次第に弱まっていくような、そんな音楽が入眠を誘ってくれるでしょう。
しかし、いかにいいBGMを取り入れても、外部の騒音対策をしておかないと効果は半減してしまいます。騒音が気になるなら、前章で紹介したような防音対策を検討してみてください。とくに重要なのは窓から入ってくる騒音への対策です。窓ガラスは建物の外壁よりも薄いため、その防音性能は一般的に外壁の半分程度だといわれています。しかし音の伝わりやすい窓も、工夫次第では室内の騒音レベルを下げることも可能です。就寝時には、40dB(A)(図書館の静けさ※)以下の環境を整えるのが理想的」そのための対策をしっかりと考える必要があるでしょう。
※参考資料:騒音の目安(出典「全国環境研協議会騒音小委員会)
(PDFファイル)
鴨志田均、菊地英男、門屋真希子、内田英夫、末岡伸一:
「騒音の目安」作成調査結果と活用について:
騒音制御 vol.34, No.5, pp429-432, 2010
まとめ:防音対策にも窓が一役買います。
「音」は目に見えないものですが、私たちの健康に深く関わっています。「うるさくて眠れない」「勉強に集中できない」といった悩みが、いつしか深刻なダメージになって身体に現れることもあるので、できる限りの対策を考えておきたいものです。防音対策のポイントは窓。交通量の多い通りに面した建物では、防音性の高い複層ガラスがよく利用されますが、さらにおすすめなのは、後施工でも実現できる窓を二重にする方法です。窓と窓の間の空気が音の障壁の役割を果たして、高い防音効果を発揮してくれます。後付けで内窓を設置すれば、大掛かりな防音工事も必要ありません。このように、窓は快適な住環境づくりに一役買っているのです。
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※YKK APより井川先生に依頼をし、頂いたコメントを編集して掲載しています。