窓を考える会社は
住まいの安全・安心も考える【vol.2】

生活者検証とものづくりの力が生む住まいの安全・安心

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YKK APといえば「窓を考える会社」。その根本には、人の快適な暮らしを願い「住まいの安全・安心を考える会社」でありたいという想いを秘めています。
その一方、実際には住まいにおける「落ちる」「転ぶ」「はさむ・はさまれる」などの事故が多く発生しています。
YKK APの開発本部 価値検証センターでは、国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下、産総研)などと連携して、住まいでの事故や傷害を予防するための検証や調査に取り組んでいます。ここでは、その活動をご紹介します。

※YKK APより米田様、西田様に依頼をし、頂いたコメントを編集して掲載しています。

生活者検証とものづくりの力が生む
住まいの安全・安心

西田 佳史氏は産総研で子どもと高齢者の安全に関する研究を行い、そのデータをものづくり企業に提供しています。安全を考える専門家の目には、YKK APの商品開発への姿勢や取り組みはどのように映るのでしょうか。 西田氏とYKK AP 米田の安全・安心に関する対談から、その姿が見えてきます。

“生活機能の変化に伴う事故が新たな課題”

【米田】ここまで、建材に特化したYKK APの生活者検証の事例をいくつかご紹介させてもらいました。今後、日本は少子高齢化が進み、生活者層の特徴も変わっていくと思いますが、それに関連して西田さんが注目されていることを教えていただけますか?

 

【西田】生活機能の変化に伴う事故です。東京消防庁の救急搬送に関するデータを見ると、0歳から4歳までが多く、5歳以降は減り、60歳を過ぎたあたりから再び増えていくことがわかります。 子どもの場合は、身体能力や認知能力が急激に発達し“今までできなかったことができるようになる”のが一因です。たとえば、高い場所に登れるようになること、1人で扉を開けられるようになることも事故につながります。 高齢者の場合はその逆で、認知症などを発症し“これまで難なくできたことに支障が生じる”ために、事故が起こります。

救急搬送者数は0歳から4歳くらいまでと、60歳以降に多い。前者は発達とともに起きる事故、後者は身体・認知能力の低下による事故と考えられる。救急搬送者数増加は介護の時期とも重なる。

出典:国立研究開発法人産業技術総合研究所「社会背景:生活機能変化のエビデンス」をもとにYKK APにて作成

“ものづくりで事故の予防につなげる”

【米田】データで改めて見せていただくと、本当に子どもと高齢者の事故が多いのですね。子どもの事故はどのような特徴や傾向があるのでしょうか。

 

【西田】実は、乳幼児の死亡原因の第一位は事故です。世界的に見ても膨大な数の乳幼児が何らかの事故が原因で亡くなっています。私は、これはデザインの力で変えられるのではないかと考えています。 たとえば東京では、5年で100名ほどの子どもが住まいの窓やベランダから転落し救急搬送されています。実は、ベランダよりも窓からの転落の方が多いのです。 ニューヨーク市でも、1960年代には5年で120人の子どもが転落していました。しかし、同市は1970年代に「Children can't fly」というキャンペーンを行い、 11歳未満の子どもがいる家の窓に開口制限をつける法律を定めたところ、転落事故が94%減ったのです。日本もこうした取り組みを行うべきです。

 

【米田】私たちも窓の開口制限の使われ方を確認するため、生活者モニターの自宅を訪問して調査しています。子ども部屋を見せてもらうと、窓の近くに学習机やベッドが置かれ、背の低い子どもでも窓から身を乗り出すことができる状況が多く見られました。 聞き取りでも、実際に子どもが窓から身を乗り出してヒヤッとしたという経験がありました。YKK APではたてすべり出し窓に開口制限を標準装備しており、引違い窓でも開口制限をオプションで用意しています。

 

【西田】開口制限といった具体的な手段があると事故の予防につながります。そのようにものづくりで解決していくことはとても大事ですね。

“子どもから目を離した後、
ベランダから落ちるまで7秒から11秒”

【西田】「商品の工夫で住まいでの事故を減らす」のは非常に有効な手段だと思います。「お父さん、お母さん、気をつけてください」と注意喚起をしても、残念ながら効果は限定的です。なぜなら、どんなに気をつけていても事故は起こるからです。

産総研には、子どもの事故がどれくらいの速さで起きるのかを調査したデータがあります(下図参照)。それによると、子どもから目を離した後、ベランダから落ちるまでの時間は7秒から11秒。 料理や掃除などの家事、別の子どもの世話もある親御さんに、7秒すら目を離してはいけないとは言えません。

また、子どもが転ぶ時間は0.5秒。オリンピック選手でも、なんらかの周囲の変化に気づくまでに最低0.2秒かかります。つまり、残り0.3秒で救わなければいけない。少し離れたところにいたら間に合いません。 周囲の大人の見守りに頼るのではなく、商品や環境を改善することが重要なのです。

すでにYKK APは生活者検証をもとにしたものづくりで、新たなイノベーション、ひいては安全に関する課題の解決を目指していますね。きめ細やかな日本のものづくりの良さが発揮されているようです。 実際の生活環境の中で実験を行うリビングラボ(※1)という手法を取り入れようと、世界各国がしのぎを削っています。先ほどの開口制限の訪問検証のように、そういった手法を先駆的に実践しているのだと思います。

(※1)生活空間(Living)が実験室(Lab)という考えのもと、実際の生活環境や社会で行う実験

どれだけ速く事故は起こっているのか?

7〜11秒

4〜6歳で、踏み台などがなくてもベランダの柵の上まで7〜11秒程度でよじ登れる。

7〜11秒

0.45秒

ベビーベッドから転落する事故が多発している。ベビーベッドの柵の高さが1mの場合、落下は0.45秒程度。

0.45秒

5〜10秒

電気ケトルが転倒し、漏れた熱湯で子どもが重篤な熱傷になる時間は、多くの商品で5〜10秒程度。

※湯漏れ防止機能がない場合

5〜10秒

0.5秒

104人の子ども(11〜50か月)の観察の結果、床での転倒にかかる時間は平均0.5秒。

0.5秒

出典:国立研究開発法人産業技術総合研究所「どれだけ速く事故は起こるのか?」

“高齢者の行動観察から、
視認性の高い手すりの実証実験に至る”

【米田】はい、今後もリビングラボの考えを強化・継続できるようにしたいと思います。ところで、高齢者の事故にはどのようなものがありますか?

 

【西田】まず挙げられるのが転倒・転落です。次に、お風呂場での溺水やヒートショック(※2)、窒息・誤飲、熱中症と続きます。YKK APは、産総研と共に高齢者の商品安全に関する事業に参画されています。 高齢者が手すりを使うときの行動観察から、壁と手すりの色のコントラストに着目。転倒予防のため、高齢者でも視認性のよい手すりの実証実験などにも取り組まれていますね。

(※2)ヒートショック:家の中で温度差の大きな場所へ移動した際、血圧が急激に変動することで、失神、心筋梗塞、脳梗塞などを引き起こす現象

 

【米田】高齢者の中には、「自分はまだ大丈夫」と思っている方も多くいらっしゃいます。しかし、転んで骨折すると体を動かすことが億劫になり、一気に身体機能が低下しがちです。 手すりは比較的簡単に取り付けられますし、転倒予防が期待できるので、出入り口などにはぜひ手すりをつけてほしいものです。

 

【西田】手や指の力が衰えても開閉できる扉や窓に変更するなどの工夫も大事だと思います。生活機能の変化に合わせて、ひとりでも生活できるよう環境を変化させる。それにより、認知機能の衰えの予防も期待できますから。

“乳幼児期、妊娠中、老年期など
身体の変化を細かく区切って必要な要素を考えるべき”

【米田】また、生活機能の変化に合わせて環境を変化させることは、自立した生活を続けられることにつながります。QOL(Quality of life;生活の質)にも影響を及ぼすので、 価値検証を通してその重要性を立証し、ものづくりにつながるように情報発信していきたいと思います。西田さんはものづくりによって、“誰もが安全・安心に暮らせる住まい”は実現できると思いますか?

【西田】さまざまな人が使えるデザインとして取り上げられる「ユニバーサルデザイン」(※3)は、健常者にも障がいのある方にも使いやすい、と理解されがちです。 しかし、私は「健常者」「障がい者」という大きな区切りでは不完全だと思っています。健常者でも、乳幼児期、妊娠中、老年期などと身体の変化を細かく区切ってそれぞれに必要な要素を考え、 そうしたきめ細やかな配慮の集合として、ユニバーサルデザインがあるべきではないでしょうか。これを追求した先に、誰もが安全・安心に暮らせる住まいが実現できると考えます。 YKK APは、まさにそうしたさまざまなユーザーの生活を思い描きながら、安全・安心に配慮したものづくりを行っていますね。今後もぜひ継続してほしいと思います。

(※3)障害の有無や年齢、性別、国籍、人種などを問わずさまざまな人々が使えることを目的としたデザイン

 

【米田】ありがとうございます。これからも、住まいの安全・安心、使いやすさ、新しい価値の実現に真摯に向き合っていきたいと思います。


※当記事には、西田佳史氏の安全に関する客観的なご意見を反映しております。
西田氏がYKK AP商品を推奨しているものではありません。

プロフィール

YKK AP株式会社 開発本部
価値検証センター
ユーザー検証グループ グループ長
※肩書は取材当時のもの

米田 昌文(よねだ まさふみ)

価値検証センターの開設時から生活者検証を担当。現在は、使用現場を重視したユーザー視点の検証とマニュアル制作に従事。

国立研究開発法人 産業技術総合研究所
人工知能研究センター 首席研究員
※肩書は取材当時のもの

西田 佳史(にしだ よしふみ)氏

人間の日常生活行動の観察技術とモデリング技術、製品安全技術、社会参加支援技術などに従事。

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