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伊香賀先生教えてください!これからの暮らしに求められる住まいとは?

教えてくれた人

伊香賀 俊治 先生

いかが・としはる●1959年東京都生まれ。慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科教授。早稲田大学大学院修了、博士(工学)。東京大学助教授、日建設計環境計画室長を経て、2006年より現職。建築・都市の環境マネジメントの第一人者。

夏涼しく、冬暖かい住まいが、おうち時間を快適にする。

家で過ごす時間が多くなったいま、住まいは休息の場だけでなく、仕事や学びの場にもなり、これまで以上に快適さが求められています。実は住まいを快適にすることは、そこに暮らす人の健康を守ることにもつながります。このことは残念ながら日本ではまだあまり知られておらず「健康のために生活習慣を整えましょう」とはよくいわれますが、「健康のために住環境を見直しましょう」と語られることはほとんどありません。

健康と住まいの関係でまず見直したいのは、住宅内の暑さと寒さです。日本は断熱住宅の普及率が低く、夏暑く、冬寒い家が多くあります。冬は居間と脱衣室などのように住宅内での温度差が激しく、部屋を移動することによって起こる、急激な温度変化は血圧を上下させ、心臓や血管の疾患を引き起こすヒートショックの要因となります。また、夏の熱中症の多くは実は屋外ではなく、暑すぎる住宅内で起こっています。住宅に適切な断熱性をもたせることで、こうした事故を防ぐことができます。

2018年、世界保健機関(WHO)は、「高断熱住宅に住むことは健康状態改善に関連している」「冬季室温の低さと呼吸器系・心血管疾患の罹患・死亡リスクとの関連」といった内容を含む、住宅と健康に関するガイドラインを発表。健康な暮らしを送るために「冬季の室温は18℃をキープすべき」という明確な指針が、世界中に初めて発信されました。

現在、大きな課題であるウイルス対策においても、暖かい住まいで呼吸器系・心血管疾患を予防することで、重症化のリスクを軽減できるとも考えられます。次ページから、快適な住まいが健康にどのように作用するのか、データとともに解説します。

暖かい住まいが健康をつくる。暖かい住まいが健康をつくる。

◎家中が暖かいことが大事。

日本の家の中でも特に、古い家や温暖な地域の家は断熱化が進んでいません。WHOの勧告にある「冬季の室温18℃以上」は家中の温度を指していますが、居間が18℃以上でも、廊下は外気温並みであることも!

2000軒を超える世帯での調査では18℃未満の居室が、居間で59%、寝室で90%、脱衣所で89%もあるという結果が出ました。日本の家は寒いのです。

求められるのは家中が均一に暖かい家。適切な断熱改修を行うことで、これは容易に実現します。2014年から行われている「断熱改修等による居住者の健康への影響調査」の結果からは、上掲のようなさまざまな知見が得られてきています。室温と血圧の関係の一部は医学誌にも掲載され、住まいの温度と健康の関係性は明確なものとなりつつあります。

家の中のどこでも温度差がなく、適切な換気が行われる家こそ、いま目指すべき家。そのためには、建物の断熱化が必須といえる。特に多くの熱を逃がすのは窓。窓枠の素材、ガラスのタイプ(シングルからダブル、トリプルへ)を見直すときが来ている。

◎断熱改修等による居住者の健康への影響調査を実施

断熱改修により、室温を改善した結果を調査(居間の室温※1、部屋間の温度差※2、床近傍室温※3)。

家庭血圧

・室温が低いほど血圧が高い、高齢者ほど影響が大きい

・部屋間の温度差、床近傍室温が血圧に有意に影響

・室温が安定すると血圧の季節差も縮小

・断熱改修で血圧が有意に改善 ※4

健康診断数値

・室温が低いほど、心電図異常所見等が有意に多い

睡眠障害・過活動膀胱

・就寝前室温が低いほど、睡眠障害・過活動膀胱のリスクが高い

・室温低下が睡眠障害の改善を妨げる可能性

・室温上昇が過活動膀胱の改善を促進させる可能性

入浴習慣

・居間または脱衣所の室温が低い住宅では、熱め入浴の確率が有意に高い

疾病・症状

・床近傍室温の低い住宅では、さまざまな疾病・症状を有する人が有意に多い

身体活動量

・断熱改修に伴う室温上昇によって、住宅内の身体活動量が有意に増加

※1 居間の床上1mの室温

※2 居間と寝室、居間と脱衣所などの非居室との部屋間温度差

※3 床上1mと床近傍(床上に設置した温度計で測定した室温)との上下温度差験

※4 「有意」とは「確率的に偶然とは考えにくく、意味があると考えられる」ことを示す統計用語

(出典:スマートウェルネス住宅等推進調査委員会 第4回報告会(2020.2.18)(伊香賀俊治幹事・小委員長)を編集)

◎暖かい家は血圧が安定。

起床時の室温とそのときの最高血圧を測ったところ、80歳男性の場合、室温20℃で血圧140㎜Hg、10℃だと150㎜Hgになるなど、室温が低いほど血圧が上がり、体にハイリスクな状態であることがわかりました(図1)。さらには、高齢者と女性ほど家を暖かくすべきということもわかります。

暖かい部屋と寒い部屋を行き来すると、血管の収縮と拡張が繰り返されるため血管壁が傷つき、それを修復しようとしてコレステロールが増加、基準値を超えると動脈硬化、循環器疾患を招くことにもなります。血圧以外の健康診断数値(図2)についても、コレステロール値、心電図の所見に違いが現れました。このほか暖かい住宅では、過活動膀胱の減少、活動量の増加など健康につながるさまざまな優位性が見られています。

起床時の室温と最高血圧を測定したデータ。男性の場合30歳では、室温が10℃低下すると血圧が3.8㎜Hg上昇するのに対し、8 0 歳では10.2㎜Hg上昇、女性の場合では30歳で5.3㎜Hg、80歳で11.6㎜Hgも上昇した。

(出典:Umishio W., Ikaga T., Kario K., Fujino Y., Hoshi T., Ando S., Suzuki M., Yoshimura T., Yoshino H., Murakami S.; on behalf of the SWH Survey Group. Cross-Sectional Analysis of the Relationship Between Home Blood Pressure and Indoor Temperature in Winter, A Nationwide Smart Wellness Housing Survey in Japan Hypertension 2019; 74(4):756-766 )

年齢・性別・世帯所得・生活習慣を調整したうえでも、朝の居間室温が18℃未満の住宅 (寒冷住宅群)に住む人の総コレステロール値及びLDLコレステロール値が有意に高く、また、心電図の異常所見が有意に多いことがわかった。

※英国保健省の最低室温推奨値の18℃を参考として、それを境に1日で最も室温が低下する朝5時の室温に基づき2群に分類

(出典:スマートウェルネス住宅等推進調査委員会 第4回報告会(2020.2.18)(伊香賀俊治幹事・小委員長)を編集)

適度な湿度で感染予防。適度な湿度で感染予防。

◎部屋が潤えば体も潤う。

建築物衛生法などによれば、人に適正な相対湿度の範囲は40~70%といわれています。ウイルスは40%以下で活動しやすくなり、カビは70%以上で活発化します。つまり、適切な湿度の住まいは、ウイルスやカビにも強いのです。

湿度が低いと皮膚や口中が乾燥します。特に口中は乾燥すると口腔衛生が悪くなり、感染症にかかりやすく、高齢者では誤嚥の発生にも関与します。介護施設を対象とした調査では、湿潤な施設では要介護度が悪化しにくいというデータも(図3)。しかし、湿度のコントロールは自然に任せるだけでは難しく、加湿器の導入などが必要ですが、それにより結露がひどくなるといった問題も発生します。室温だけでなく湿度を保つためにも、家の断熱化は欠かせないものといえるでしょう。

幼稚園児の自宅寝室の室温と病欠の関係を見てみると、高温(12.5℃以上)・高湿(52.5%以上)に暮らす園児の病欠が少ないことがわかった。高温でも低湿だと、低温で高湿のケースよりも病欠児が多い。

※オッズ比は、ある事象の起こりやすさを2つの群で比較して示す、統計学的な尺度。また、調整オッズ比は、ほかの説明変数の影響を取り除いたオッズ比

(出典:Ikaga Lab., Keio University(Saeka SHIRAISHI and Erika IWASAKI))

介護施設を対象とした調査では、乾燥施設(昼または夜の相対湿度30%未満)よりも湿潤施設(昼・夜とも相対湿度30%以上)のほうが、2倍程度要介護度が悪化しにくいというデータが得られた。

(出典:林侑江, 伊⾹賀俊治, 安藤真太朗, 星旦⼆:有料⽼⼈ホームの冬季室内温熱環境が⼊居者の要介護度の重度化に及ぼす影響−介護施設の室内温熱環境と⼊居者の要介護状態に関する実態調査−, ⽇本建築学会環境系論⽂集, Vol.83, No.745, pp.225-233, 2018.3)

適切な温度と湿度で、おうち時間やテレワークが充実!適切な温度と湿度で、おうち時間やテレワークが充実!

◎眠れる家は仕事も捗る。

ここまで、冬暖かく夏涼しい家が健康に関与することを解説してきました。寒いと血管が収縮して血圧が上がる、といった明快な事例のほか、興味深いデータも得られてきています。それは睡眠の質と生産性の向上です。

熱帯夜が続く夏は、エアコンの風や冷えでよく眠れず、運転を止めれば暑くてやはりよく眠れない、という経験をした人も多いでしょう。冬も同じように寒さでぐっすり眠れないことがあります。しかし温熱環境が整った部屋にすることで、睡眠の質は向上します。実験によると、よい睡眠を得られた翌日は知的生産性が向上する、つまり仕事などの効率がアップすることがわかっています(図4)。

住まいが仕事や学びの場になりつつあるいまこそ、適切な温熱環境を保つことが大切なのです。

冷房制御が睡眠の質に与える影響を調べた結果、エアコンを28℃でフル運転するよりも、26℃で3時間タイマー運転をしたほうが睡眠効率がアップ。最もよく眠れたのは放射冷房パネルを用いたケースだった。

(出典:本多英里、伊香賀俊治、大平昇、岡島慶治、海塩渉:夏季の温熱環境制御が睡眠と翌日の作業効率に与える影響の経済性評価、日本建築学会環境系論文集,第81巻, 第724号, 523-534, 2016.6)

足元の温度で正答率にも差が。

断熱性の低い家は、いくら暖房運転をしても足元が寒い。タイピング作業での実験の結果、夏・冬を問わず、足元の温度が低い部屋は、暖かい部屋に比べて正答数が減り、知的生産性が下がることがわかった。

(出典:Ikaga Lab., Keio University(Ai OKAZAKI))

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